不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

欲しい/永井するみ

欲しい

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 人材派遣会社を経営する由希子(42歳独身)は、商事会社の取締役・久原と不倫中であったが、久原を愛せば愛すほど飢える何かを、出前ホスト・テル(公称29歳)で埋め、充実した生活を送っていた。そんなある日、由希子の会社の派遣スタッフ・ありさの派遣先に、ありさの元夫が訪れ金を無心する。こんな状況では真っ当に勤められないと落ち込み、辞めると言い張るありさを、由希子は《あなたは娘もいるんだししっかりしなさい》と慰留するが……。
 この物語は、由希子・テル・ありさの三つの一人称パートを持つ。不倫・ホスト・離婚と、ある意味《爛れた》恋愛のありようを、彼らは三者三様に体現しており、物語の要素・展開・登場人物いずれもイヤ話としての特徴を完備している。だが作者の筆致は非常に抑えが効いており、淡々と進む。これが非常に素晴らしい。ミステリとしても美しく端正な出来栄えを見せ、完成度は相当高い。広範に熱狂的な支持を生むタイプの作品ではないが、佳品として十分に慈しみたい。