不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

アサシーニ/トーマス・ギフォード

アサシーニ―コンクラーベ・ヴァチカンの陰謀

アサシーニ―コンクラーベ・ヴァチカンの陰謀

 ローマ教皇カリストゥス4世*1は、病により死に瀕していた。彼の病状は伏せられていたが、カトリックの然るべき世界は、近付くコンクラーベ前夜の、ある種祝祭の雰囲気さえ漂わせる……。そんな中、型破りの修道女として名を馳せるヴァル・ドリスキルが殺害される。彼女の兄にして、現弁護士、元修道士のベンは、妹の友人シスター・エリザベスと共に、彼女の死の謎、そして教皇庁の隠された真実に迫る。
 二段組・700ページ超の大著である。過去も現代でも、そして恐らく未来においても隠然たる影響力を有する、巨大宗教組織カトリックを巡る、これは物語なのだ。帯には《神など信ぜずともよい。ただ「組織」に忠実あれ!》とあるが、『アサシーニ』はこのテーマが追求される、ケレン味溢れる陰謀劇である。ドリスキル家にまつわる父子劇、ベンとエリザベスの恋愛模様も見られるが、それらにもカトリックは克明な影を投げかけ、色々考えさせられた。
 とはいえ、決して重厚な物語ではない。ペダントリーも薄いもので、登場人物の造形も複雑ではなく単純だ。基本的にはすらすら読めるエンタメの線を固守しているが、その一方、山場の頻度が長さの割に少なく(回数そのものは少なくないし、盛り上がるときは盛り上がる)、そしてテーマは先述のように重い。物語との距離感を掴みあぐねる、バランスの良くない小説であると思われた。似たような修辞が作品中で使い回されるのもあまり印象が良くない。

*1:むろん、架空の教皇である。