不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

比類なきジーヴス/P・G・ウッドハウス

比類なきジーヴス (ウッドハウス・コレクション)

比類なきジーヴス (ウッドハウス・コレクション)

 本当に今更だがウッドハウス初体験。バークリーを神と崇める人間が、ウッドハウスを未読で済ませるなどどう考えてもあり得ず、この致命的欠陥を補うべく、遂に手を付けたのである。しかしこれがもう本当に面白い。楽しめるだろうとは思っていたが、まさかこれほどとは……。いいいい一生付いて行っていいですか?
 この作品は事実上の連作短編集であり、各章において様々な事件が起きる。内容としてはドタバタ劇であり、それ以外の何物でもあり得ない。しかし、これが滅法楽しいのである。バーティーによる一人称も素晴らしく、教養があってもなくても楽しめるという優れもの。随所で噴いてしまった。そしてミステリ的な手法が一部にさり気なく使われ、効果を挙げる。深遠な人間ドラマ等は展開されないものの、人間性に関する洞察がなければ書けない場面が続出するのも素晴らしい。というわけで、眉間に皺を寄せて「ためになる」ことを明示するタイプの小説にしか恒久的価値を認めない読者(=馬鹿)を除き、万人におすすめできる傑作である。
 そして恐ろしいことに、『比類なきジーヴス』は序の口に過ぎなかったのだ……。