不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

傷痕/コーディ・マクファディン

傷痕(きずあと)〈上〉 (ヴィレッジブックス)

傷痕(きずあと)〈上〉 (ヴィレッジブックス)

傷痕(きずあと)〈下〉 (ヴィレッジブックス)

傷痕(きずあと)〈下〉 (ヴィレッジブックス)

 凶悪犯に最愛の夫と幼い娘を面前で嬲り殺され、自らも顔と心をずたずたにされた辣腕FBI捜査官のスモーキー。心の傷が癒ぬまま休職中の彼女に、ある日部下から連絡が入った。親友が惨殺され、その死体に彼女の娘・ボニーが結わえ付けられ数日間放置(ボニーは生きている)されていた。現場からは、スモーキー宛ての挑戦状も見付かっている。スモーキーは、トラウマによって喋れなくなったボニーを引き取り、殺人犯に立ち向かうべく、職務に復帰、優秀な部下と共に捜査を開始するが……。
 軽く読めるサイコ・サスペンス。わかりやすいキャラ造形、スピーディーな展開、適度な意外性、主人公自身の人生とのリンクといった特徴を併せ持ち、しかもこれらに過不足が全くない。読みやすいし、まあいいんじゃないでしょうか。部下がいかに優秀で素晴らしい人間かを、初登場したその瞬間から、一人称の地の文により延々1ページにわたりと礼賛することで描く、という手法は個人的に好かないが。
 というわけで、全体的には印象が薄い話だった。しかし唯一、主人公のエクスタシーに関し「私は月に吠えていた」という表現があり、すわクトゥルーと一瞬だけ身構えた。もちろんそんな話には全くならなかったのだが、こういうくだらないことを読んでいる最中に考えてしまうほど、読者に負荷をかけない小説といえるだろう。良くも悪くも。