不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

乱鴉の島/有栖川有栖

乱鴉の島

乱鴉の島

 本ミス1位との報に接し、読んでみた。火村シリーズ長編の中では上の方、という意見もよく聞いていたしね。
 登場人物が全員顔を見せ、孤島と化すまでの展開はなかなか面白い。辺鄙な島に集まった人々が何かをやろうとしている、という設定も興味津々だ。いかにも怪しげ、という雰囲気が的確に描かれ、興趣を高めている。
 しかし、真相が私には効力を発揮しなかった。デビュー以来、有栖川有栖は動機にあまり注力して来なかった*1が、『乱鴉の島』は良くも悪くもその一例となるのではないか。また、登場人物が島に集まった理由の伏線が少ないことは、更に大きな問題であると考える。プロローグでの強い煽りに対し、ミステリ的な手当てが貧弱なのだ。殺人事件自体のロジックは、全盛期にこそ及ばないが、それなりにまとまっているので、実に勿体ない。

*1:有栖川には、事件の現象面を重視する一方、登場人物の心理面の掘り下げを《本格ミステリ作家の職掌範囲外》と捉えている節がある。