不正侵入/笹本稜平
- 作者: 笹本稜平
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/11/21
- メディア: 単行本
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一介の刑事がそれなりに仲間の力を借りつつ、権力の闇へ踏み込んでゆく物語。この作家は『時の渚』を読んだだけで、その際は「ちょっと一本道な上に、明かされる真相も(登場人物の相関について)ご都合主義ではないか」と微妙な思いを味わった。笹本はその後、冒険小説の方面で化けたとよく聞き、いずれ読んでみようと思っていたのだが、タイミング整わず、警察小説での再会となってしまった。
錯綜する事件を描き切った労作といえ、一定の評価をおこなうべきなのは間違いない。情を排したストイックな文章はなかなか読み応えあり。しかし、それゆえでもあるのだが、《権力》に即《悪》の臭いを付け、権力者側の人々にもあるであろう「中の人の事情・相克」に気を使った形跡が全く見られないのは、個人的には首肯しがたいものを感じる。だがまあここは良い。
問題は事件の落とし前である。467ページから468ページにかけて、地の文でひたすら説明して終わり、というのはあまりにあまりではないか。ストイックな創作姿勢というよりも、小説化の怠慢と感じてしまった。登場人物の人間ドラマに焦点を当てたかった、社会的な要素は二の次だったんだ、と言われたらそれまでだが……。惜しい。実に惜しい。