不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

不正侵入/笹本稜平

不正侵入

不正侵入

 マル暴刑事・秋川の旧友、吉岡興産社長室室長・有森が墜死した。有森の妻(彼女もまた秋川の旧友であった)は失踪し、背後には検察や暴力団の怪しい動きが垣間見える……。そんな折、秋川はマル暴から、ハイテク組織犯罪捜査室への転属を命じられる。警察上層部のインテリたちが幻視しているに過ぎない、組織的・大規模なネット犯罪を取り締まるための部署。実態は閑職ではないだろうか。秋川は、その長を務めつつ、秋川は友の死や失踪を調査するが……。
 一介の刑事がそれなりに仲間の力を借りつつ、権力の闇へ踏み込んでゆく物語。この作家は『時の渚』を読んだだけで、その際は「ちょっと一本道な上に、明かされる真相も(登場人物の相関について)ご都合主義ではないか」と微妙な思いを味わった。笹本はその後、冒険小説の方面で化けたとよく聞き、いずれ読んでみようと思っていたのだが、タイミング整わず、警察小説での再会となってしまった。
 錯綜する事件を描き切った労作といえ、一定の評価をおこなうべきなのは間違いない。情を排したストイックな文章はなかなか読み応えあり。しかし、それゆえでもあるのだが、《権力》に即《悪》の臭いを付け、権力者側の人々にもあるであろう「中の人の事情・相克」に気を使った形跡が全く見られないのは、個人的には首肯しがたいものを感じる。だがまあここは良い。
 問題は事件の落とし前である。467ページから468ページにかけて、地の文でひたすら説明して終わり、というのはあまりにあまりではないか。ストイックな創作姿勢というよりも、小説化の怠慢と感じてしまった。登場人物の人間ドラマに焦点を当てたかった、社会的な要素は二の次だったんだ、と言われたらそれまでだが……。惜しい。実に惜しい。