不壊の槍は折られましたが、何か?

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地球発狂事件/海野十三

海野十三全集 第11巻 四次元漂流

海野十三全集 第11巻 四次元漂流

 アイスランドの海抜5,000メートル級の山頂に、巨船が突っ込むという椿事が起き、現地の記者と日本人記者(なんでそんな所にいたのかわからない)が、そこから巻き起こるSF的大事件に巻き込まれるというもの。
 戦後に書かれた(一応大人向けの)作品で、戦意高揚少年もので見せた、闘争心の扇情は見られない。その代わりに地球人類の和合が打ち立てられ、まずは健やかに読める。事件内容はなかなかスケールが大きく、波乱も万丈。しかも、その大冒険に、なぜか新聞記者(ばかりかその恋人まで!)が各所に首を突っ込んで重要な役割を果たすのは面白い。新聞記者ってこんなに凄い職業だったっけ、という突っ込みはするだけ野暮だが、正直ルールタビーユですら彼らの前では小物に映る。あのフランス人はせいぜいみみっちい殺人事件を解決するだけだが、こっちの新聞記者には全人類の命運がある意味かかってるからなあ。
 というわけで、普通に明るく楽しく、そして軽く読む分には良い作品である。
 なお、連載期間が1945年9月〜1946年だったので、アメリカが唯一の核兵器保有国と書かれているのが世相を反映していて興味深かった。核兵器を持つのが一国だけという期間は、人類史の中では今のところ、4年だけですものね。