不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ステーションの奥の奥/山口雅也

ステーションの奥の奥 (ミステリーランド)

ステーションの奥の奥 (ミステリーランド)

 観音市に住む小学六年生の神野陽太は、将来の夢を書く作文で、吸血鬼になりたいなどと書いてしまい、カウンセリングを受ける羽目になる。保護者として同行したのは、忙しい両親に代わり、同居するデブで夜行性の叔父さんであった。あの作文はウケ狙いだったと言い訳してカウンセリングは何とか切り抜けたものの、夏休みの自由研究はもっとマトモなテーマを扱わねばならない。そこで陽太は、東京駅の取材をすることにし、叔父さんに付き添ってもらって東京駅に赴く。だがそこで色々あって、陽太は、先の作文で将来の夢を名探偵とした同級生の真行寺留美花と、殺人事件の調査に手を付ける。
 主人公と叔父の交流にも、心温まる何か(それは、大きなお友達にも独特の感慨をもたらすだろう)がある。しかし、物語はある場面から一気にバカミスと化してゆく。アレをもっと先に提示し、ルールも(俗説に委ねず)作品内でしっかり提示しておけば、更に完成度は高くなったはずだが……。とはいえ、なかなか楽しめる一編に仕上がっていることは間違いない。この叢書が好きな人には、遠慮なくお勧めできる作品である。