不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

バード・ウォーズ/多島斗志之

 KGB東京駐在部は、バイカルというコードネームの日本人を情報提供者として取り込むことに成功。そして彼から、《コウノトリペレストロイカを潰せ》という謎の情報を入手する。気になったモスクワ本部が調査を開始したところ、南アフリカの自然保護区*1で、アメリカ人と見られる団体がコウノトリに関して怪しげな動きを見せていた。
 工作員の人間ドラマ(色恋絡み)と、諜報という特異な世界を、落ち着いた筆致で描く。しかし、その内容が、天晴れなほどに奇想。人によってはバカミスに分類しかねまい。とはいえ作者の筆に浮ついたところは皆無で、完成度が高く、全編の雰囲気も静かである。真面目な顔でとんでもないもの書くなあという感じ。多島斗志之の諸作の中でも上位に位置する、代表作の一つに挙げられる一冊。……とはいえ、『バード・ウォーズ』が出版された1988年当時、その後わずか3年でゴルバチョフ失脚はおろか、ソ連そのものが消滅するなど、誰一人として考えていなかっただろう。事実は、少なくとも、小説に張り合うほどには奇怪なのだ。

*1:ここからコウノトリソ連西部に渡って来る。