不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

Kの日々/大沢在昌

Kの日々

Kの日々

 三年前、暴力団丸山組の組長が誘拐されるという事件が起きていた。実行犯は当時の組員二人と、中国人だった。しかし組員二人に指図していたのは、謎の「メール男」。うまく行くかに思われた犯行は、しかし身代金が消え、中国人が東京湾に浮かび、失敗に終わる。組員二人は、事件後組をやめ、ほとぼりが冷めるまで服役という形で「避難」していたが、この度出獄し、探偵・木に、その中国人・李の恋人ケイを見張るよう依頼する。木は次第に、健気に雑貨屋を営むケイに惹かれてゆくが、丸山組の組長の息子や、死体処理業を営む男が、ケイの周りで怪しく暗躍し始める。
 かなりご都合主義的な物語である。展開上どう処理するか腕の見せ所、と思われる箇所において、作者は悉く強引に押し切る。現実的には、ちょっと無理というかあり得ないだろうなあ、という感じ。大沢在昌には元々こういった傾向があったが、『Kの日々』ではより顕著に出ている。しかし、では駄作なのかというとそんなことはない。
 非常に読みやすいのはこの作家にしてみれば当然だが、ご都合主義だろうが何だろうが、とりあえず先を読ませる筆の才はやはり得がたいものだ。加えて、主人公の木のキャラクターがうまく機能している。朴訥かつ飄々としつつ、妙にとぼけたキャラによって語られることで、ご都合主義的な展開がコミカルな風味として感じられるのだ。ここら辺は、どこまで計算して書いているかわからないが、やはり実力者だなあと感心してしまう。
 さすがに傑作とは言えないものの、軽く読み流す分には、なかなか面白い小説である。