不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ブラックストーン・クロニクル/ジョン・ソール

ブラックストーン・クロニクル〈上〉

ブラックストーン・クロニクル〈上〉

ブラックストーン・クロニクル〈下〉

ブラックストーン・クロニクル〈下〉

 アメリカの小さな町ブラックストーンで、送り主不明のプレゼントを贈られた町人が、次々と事件に巻き込まれてゆく……。折りしも町では、廃墟となった精神病院を取り壊し、ショッピング・モールを建設しようという計画が動き始めていた。不気味な連続事件は、この廃墟に端を発するのか……?
 作品はプレゼント毎に6つのパートに分かれ*1、届け先の悲劇を連作のような形で描き出してゆく。全編通しての主人公は、精神療養所の院長(故人)の息子で、町の新聞《ブラックストーン・クロニクル》の編集長を務めるオリヴァー・メトカフ。彼は2番目の犠牲者に、災いが我々を取り巻いている、ついては君がこれを止めてくれ、と今わの際に懇請されるのだった。
 主人公が見ていると思しい悪夢が折々に挟まれ、ホラーに落ちるかミステリに落ちるか油断を許さない。ミステリ的な興趣とは若干異なる暗中模索感が、読者を良い意味での不安に突き落とす。かつては町の経済を支配した精神病院の廃墟、ちょっとしたプレゼント、作者の落ち着いた筆致が、独特の素晴らしい雰囲気を醸し出すのだ。アメリカの片田舎の閑静な町に暗雲が立ち込める様も、動静両面において見事に描き込まれている。特に複雑な話でもないが、ストーリーテリングが非常に巧みなので、さくさく読むことができよう。けだし名手の佳作。若干地味だが、割と広くお薦めできるのではないか。実に大切に、丹念に綴られたことがひしひしと伝わって来るのも、たいへん好ましい。
 以下、どうでもいい話なのだが、オリヴァーが好意を抱くレベッカ・モリスンは、少女時代に交通事故で頭を打ち、知能障害を持っているとされる。しかし、読んでいると全然そんな気がしないというか、萌えキャラ気味じゃね? いや、ひょっとすると、そもそも萌えキャラって……などと考えを進めそうになり、怖いので慌てて止めた。

*1:本国では、スティーヴン・キングの『グリーンマイル』同様、6ヶ月連続刊行をおこなったらしい。