夏の魔法/北國浩二
- 作者: 北國浩二
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/10/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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中学生同士の、幼いながらも(いや、だからこそ)幸福感に満ち溢れたエピソードを「序章」に持って来るという冒頭から、作者の筆は全く容赦がない。
夏の島の美しさ、若さの輝き、未来への夢。これらが、夏希に忍び寄る嫉妬心、早過ぎる老い、過酷な現実とぶつけられ、やめろおおおおお!と叫び出したくなるほど、あまりにも、あまりにも残酷かつ鮮明に対比される。我々読者は涙すら流せない。ただ呆然と沈むことができるのみなのだ。あるいは血の涙を流すか。また文章もミステリ・フロンティア中では最も格調が高く、夏希の心理状態を微に入り細を穿って描き込み、効果を増幅している。結末も、安易に陥ることを拒み通す。本当にこれはただ事ではない。
悲劇。哀しい話。切ない話。泣ける話。痛い話。これらの修辞は、『夏の魔法』の前だと浅薄なものに映るだろう。ただただ重い。重過ぎるほどに重い。傑作である。好みの問題はどんな作品にもあるが、閑却されて良い作品では、これは絶対にないのだ。強くお薦めしたい。