不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

オックスフォード連続殺人/ギジェルモ・マルティネス

オックスフォード連続殺人 (扶桑社ミステリー)

オックスフォード連続殺人 (扶桑社ミステリー)

 アルゼンチンからの奨学生として、《私》はオックスフォード大学に留学した。そして下宿先の未亡人が殺されてしまう。一緒に第一発見者となった世界的数学者セルダム教授のもとには、不思議なメッセージが届けられていた。連続殺人を疑う《私》とセルダム教授は、捜査を開始する。
 変なミステリである。千街晶之が解説で仄めかすあの作品は、真っ当な本格ミステリとして日本のファンの間ではコンセンサスを得ている。しかし『オックスフォード連続殺人事件』は、仕掛け自体は同趣向でありながら、全体としての印象は所謂奇書に近い。この差異は、主に衒学の扱い、全編を覆う切迫感、外国人である主人公のそこはかとない疎外感や虚無感等によると思料される。難解でも晦渋でもない、それなりに読みやすい小説ではあるのだが、常に奇妙な感覚がつきまとう。素材をかなり煮詰めた小説であり、ラストの味わいはまさに煮凝りのようである。なるほどこれは興味深い。本格好きはこれを読んで様々な思いをよぎらせることになるだろう。唯一無二とまでは行かないだろうが、特徴ある佳品として本格ファンにはお薦めしたい。