不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

闇に葬れ/ジョン・ブラックバーン

闇に葬れ (論創海外ミステリ)

闇に葬れ (論創海外ミステリ)

 英国国教会の主教がひき逃げされる。彼は、ダム建設計画により沈む予定の納骨室を開けることを拒否していた。その納骨室には、天才か狂人かという十八世紀の芸術家の墓があり、未発表の作品も収められているのらしいのだ。それらを掘り起こし、世に出すべきだと強固に主張する集団。新任主教もまた納骨室開放には反対の立場を取ったため、集団の一人は納骨室の内部に潜入する。しかし彼は墓の中で無気味な笑い声を聞き、慌てて逃げ出し、やがて死んでしまう……。納骨室には一体何が潜むのか?
 話の各要素をつぶさに検討するとB級ホラー以外の何物でもないが、雰囲気が落ち着いておりじっくり読める。登場人物が抱く恐怖感も焦燥感も、おどろおどろしいムードも、急激な話の展開も、これ見よがしに煽り立てられることはない。常に抑制を効かせて、概ね格調高くまとめ上げられている。先述のように、骨子はB級なのに! この質感と齟齬がたまらない魅力を放つ。
 お国柄で何かを十把一絡げに括ることほど愚かしいことはないが、それでも敢えてやると、実にイギリスらしい作品であり、作家であると思う。恐らく他の国でこのタイプの作家を輩出することは難しいのではないか。訳文は若干硬いが、まあそれほど問題もないと思われる。この作家が更に訳出されたら、とても嬉しい。