不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

火薬船/海野十三

怪鳥艇 (海野十三全集 第9巻)

怪鳥艇 (海野十三全集 第9巻)

 日本人であることを(偽の葬式まで出して)隠し、壮途を期して出港した商船《平靖号》の冒険を描く。そして偶然ある秘密計画を嗅ぎ付け、それを邪魔することになるのだが……。
 物語は正直中だるみ。大体《平靖号》の所期の目的が明示されないまま終わってしまうので、据わりの悪いこと夥しい。全集でなければ読む価値はない作品といえよう。
 なお、作品の質云々とは全く関係ないが、「火薬船」は明らかに戦意高揚のために書かれた小説で、少年向けにこのようなことが大っぴらに書かれる世相には背筋が寒くなる思いだ。何が怖いといって、日本への自画自賛のベタ誉めもさることながら、外国人(主に西洋人)を憎々しげに描くことで、敵愾心を煽り立てる点が怖い。