不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

絞首人の一ダース/デイヴィッド・アリグザンダー

絞首人の一ダース (論創海外ミステリ)

絞首人の一ダース (論創海外ミステリ)

 スタンリイ・エリンが前文を書いている名手の短編集。《異色作家短編集》に入っていてもおかしくない内容で、もちろん、中心アイデアは今となっては《完全に意外》というわけではないが、腕によりをかけて書いたことがはっきりわかる。展開、構成、余韻、視座いずれも上々。
 個人的には、妹を堕落させ死に追いやった男への復讐を誓う修道士を描く「優しい修道士」、黒人差別による私刑にまつわる不条理な「その三日目に」、これまた黒人差別を描くものの汎人類にある事柄を突きつけまくりな「アンクル・トム」、オールド・ミスの底抜けの孤独が読者にとって(良い意味で)ストレスフルな「デビュー戦」、中年男に連れ去られそうになっている幼女の安全のため、必死で彼らを追うホームレスの物語「蛇どもがやってくる」、幼年期の夢に出て来た恐ろしい男が現実にやって来る「雨がやむとき」辺りがお気に入り。
 奇妙な味付けによる小粋な短編が好きな人には必読である。