深夜の市長/海野十三
- 作者: 海野十三
- 出版社/メーカー: 三一書房
- 発売日: 1988/06/01
- メディア: 単行本
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夜中の大都会(不夜城エリア除く)の、あの独特な雰囲気をベースに、その夜を支配する変な奴(外見はルンペン)がいる、というお馬鹿な発想を羽ばたかせる名作。何の意味もなく床下から侵入する女間諜(玄関や縁側から入ればいいじゃん……と思っていたら、次の侵入は玄関から堂々とやって来て笑った。)、ドタバタ気味の展開、そして引き起こされる昼の市長を巻き込む大醜聞など、所謂《必然性》とやらに縛られない非常にスピーディーかつエキサイティングな物語展開が魅力的。主人公が作中で抱く、淡い恋心や深夜の市長一味への信頼が、ラストに漂う寂寥感・虚脱感に繋がっているようでここら辺は普通に素晴らしい。解説によると、2.26事件のため書きたいことが十全には書けなかった模様で、そう言われると、確かに後半はもっと暴れることもできたと思われる。その意味では非常に惜しい作品だ。
まあでも十分傑作なので、未読者にはお薦めです。夜の帝都のとても素敵なファンタジー(でも馬鹿)、というのが基本線の、娯楽作品と思し召せ。