不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

屍衣の流行/マージェリー・アリンガム

屍衣の流行 世界探偵小説全集 (40)

屍衣の流行 世界探偵小説全集 (40)

 人気女優ジョージア・ウェルズの婚約者リチャード・ポートランド=スミスは3年前、突然失踪を遂げていたが、遂に白骨死体となって発見される。探偵アルバート・キャンピオンは、リチャードの死の真相を依頼され、ジョージアに接近する。しかしそこは、既に別の男と結婚しているジョージア周辺の、愛憎入り乱れる複雑な人間関係の渦中に飛び込んでいくことであった。そして、ジョージアの衣装デザインを担当するのは、他でもない、キャンピオン自身の妹ヴァレンタイン・フェリス(夫とは死別)であったのだ!
 服飾業界周辺の上流社会で巻き起こる、ひょっとすると殺人事件かもしれない《人死に》スキャンダル……というわけで、これはもう完全に古式床しい英国クラシック・ミステリの味わい。アリンガムの筆は非常に丹念であり、社交の雰囲気を鮮やかに立ち上げている。さらに、キャンピオンとヴァル・フェリス兄妹の、それぞれの恋愛模様にやきもきできるなど、恋愛小説としても読み込むことが可能だ。古典好きは以上2つの特徴だけで楽しむことができようが、『屍衣の流行』は、ミステリとしてのネタも、小林晋が解説で語るとおり、なかなか興味深い。
 しかしまず何よりも、格調の高さを終始崩さないのは素晴らしい。登場人物の描き分けも万全である。クラシック好きにはたまらない作品といえるだろう。読み飛ばしてしまうと魅力半減もいいところなので、じっくり読み進めることをお勧めしたい。あーでも偏執的な女権伸張論者は読んじゃいけないかも。