不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

12番目のカード/ジェフリー・ディーヴァー

12番目のカード

12番目のカード

 ハーレムのハイスクールに通う16歳のアフリカ系アメリカ人、ジェニーヴァ・セトルは、解放奴隷だった祖先チャールズ・シングルトンの経歴を図書館で探っている最中、暴漢に襲われる。現場にはレイプ用の道具のほか、HANGEDMANのタロットカードが残されていた。リンカーン・ライム、アメリア・サックス、ロン・セリットーらは捜査を開始するが、どうも単純な強姦未遂事件ではないらしく……。
 140年前の事件と現在の事件の関係が一向に見えない中、矢継ぎ早に小事実を繰り出してくるので読者を飽きさせない。そして展開はあくまでサスペンスフル! 基本的には明るい色調で進むが、サックスやセリットーがたまに犯人同様《病んでいる》ようにしか見えないチャプターもあって、隈取も付与されている。ストーリーテリングもさすがの手練だ。物語の主要主題はアフリカ系アメリカ人(と社会的弱者・貧困層)の問題に絞られている。もちろん、社会派的な要素が娯楽小説の快楽を奪わない範囲内でだが。
 キャラの面では、独立心を失わないジェニーヴァの性格設定が本当に素晴らしく、シリーズのレギュラー(特にライム)は彼女を盛り立てる役柄をこそ振り当てられる。『魔術師』で若干感じさせた《シリーズ・キャラの関係性の変化》は、『12番目のカード』にはほとんど引き継がれていない。僅かに萌芽はあるかも知れないが……。
 以上、『魔術師』ほどではないが、十分素晴らしい作品として広くお薦めできる。さあ、二段組500ページを一気読みです!