不壊の槍は折られましたが、何か?

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太平洋雷撃戦隊/海野十三

海野十三全集3

海野十三全集3

 昭和○年、大元帥陛下は×国に宣戦の詔勅を発せられた。×国は、ハワイ島パール軍港を一大要塞とすべく、パナマ運河経由で大量の物資を大商船隊で運ぼうとしていた。五隻の潜水艦がこれを撃滅すべく、ハワイ〜パナマ運河の間に勇躍出撃するのであった。
 第八潜水艦の活躍を主に描く作品で、1933年8月に《少年倶楽部》に掲載された、著者初の少年小説であるとのこと。潜水艦という兵器の活躍を、メカニカル面でマニアックに強調するのではなく、あくまで戦意高揚の感興をベースに、お子様向けに強調する。オタク心をくすぐるのではなく、一般の少年の心を掴むことが目的なのだから、この措置は当然のことであろう。一部沈む艦もいるなど、味方に犠牲を出すことも忘れない。
 北朝鮮が核実験をおこなった今日という日に、戦意高揚にエンタメ文壇から積極的に参加した海野十三(その真意を私はまだ知らない。そもそも故人の真意など知る時など訪れようか?)の全集を読み始めることには、ある種特殊な感慨もある。二度と再び、エンタメ文壇のあの不健全な状況(時局に探偵小説が相応しくないとして出版が差し止められる、作家が大挙して従軍記を書く等)が訪れることのないように願いたいものだ。