不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ジョナサンと宇宙クジラ/ロバート・F・ヤング

ジョナサンと宇宙くじら (ハヤカワ文庫 SF 245)

ジョナサンと宇宙くじら (ハヤカワ文庫 SF 245)

 スイーツなSFを揃えた短編集。優しくて穏やかな短編揃いで、ときには切ない情感も漂わせる。非常に読みやすいし、多くの人が抵抗感なく読めるだろう。ただ個人的にはちょっと甘過ぎた気がしないでもない。表題作などを読んでいると、異種族交流とか、宇宙的なスケールとかを、感傷という鋳型に無理矢理押し込めて矮小化した印象を受けてしまう。読み手としては良くないことだ。
 お気に入りは、素晴らしい絵描きの少女(でも道端で売る絵を、足を止め見る人はほとんどいない)と男が出会う「魔法の窓」、悪魔に、自分にだけサンタクロースの存在を現実のものとして欲しいと頼む「サンタ条項」、星を旅する俳優の更生と愛の物語で犬っぽい生物がずるい「リトル・ドッグ・ゴーン」、愛しの女性が巨大化してゆく「いかなる海の洞に」。こうして並べてみると、毒に惹かれているのがよくわかる。