不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

探偵学入門/マイクル・Z・リューイン

探偵学入門 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

探偵学入門 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 21作品も収められている徳用短編集。
 リューインは、会話文・地の文問わず、細部の台詞回しが非常に印象的な作家である。そしてそこから、語り手のキャラクターが垣間見え、ときには確立される。この手法は長編でも活用されるが、もちろん短編でも有効に機能するわけで、リューインが短編の名手であってもおかしくはないのだと思う。短編向きである比較的シンプルなプロットを思い付くことさえできれば。
 『探偵学入門』は、リューインがそれができることを証明する。簡明だが鮮やかな筋立てと、要所で光る表現の妙。私はとても楽しんだ。なお、《探偵家族》シリーズの短編が6編収録されているが、予想通り、長編に対して私がやらかした言い掛かりは短編に対しては言えないし言う気もなくなる。このシリーズ、今後は短編だけで行きませんか。そして、ノンシリーズの作品の数々はそれにも増して本当にいい。シリーズ・キャラクターの縛りがないことが、いい意味で効果を及ぼしている。要するに色々やれるのである。
 というわけで、『のら犬ローヴァー町を行く』に既に入っていた「恩人の手」がここにも重複して入っていることは少々残念ではあるが、総体的には素晴らしい短編集と言えるだろう。ファンは読むべきだ。