不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

誰が駒鳥を殺したか?/イーデン・フィルポッツ

 ノートン・ペルハムは、将来を嘱望される若き医師で、おまけに大金持ちの伯父ジャーヴィスから将来莫大な遺産を継ぐことは間違いなかったのである。ただし、ジャーヴィスは甥に、自分の秘書でネリー・ウォレンダーと結婚してほしがっていた。実際ネリーは素晴らしい女性で、結婚相手としては理想的ではあった。しかしノートンは、美貌のダイアナ(通称クックロビン)と出会い、恋に落ち、電撃結婚してしまう。ダイアナはダイアナで、ベンジャミン・パースハウス卿のプロポーズを蹴っての結婚であった(ベンジャミンは後に、ダイアナの姉マイラと結婚する)。ジャーヴィスは激怒し、ノートンを遺産相続人から外すことを決定。そして、ノートンとダイアナの夫婦仲は、徐々におかしくなっていったのだ……。
 恋愛とは、結婚とは何かを問う、格調高い長編。1924年の作品だが、今日に通じる問題提起も多々含まれており、ノートンとダイアナの激しい恋愛、結婚による幸福、そしてゆるゆると弛緩し落ち込んでゆく倦怠関係などを、本当に鮮やかかつ的確に描出している。男性側に都合良過ぎるものの、ネリーの人物造形も印象的。フィルポッツを読むのは実に久しぶりだが、これほどうまい作家だったという記憶がない。当時の私が若過ぎたのか、今の私がボケて何でも良くなってきたのか、理由は不明だが、とても良い読書体験となった。しかもミステリとしても、シンプルだがなかなか面白い。広くお薦めできる作品だ。