不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

負け犬/マイクル・Z・リューイン

負け犬 (ハヤカワ ポケット ミステリ)

負け犬 (ハヤカワ ポケット ミステリ)

 インディアナポリスの心優しいホームレス、ジャン・モロは、自称立派なビジネスマンである。その《仕事柄》、彼は市中をうろつくため、様々な厄介ごとに巻き込まれがちだ。今日もジャンは、空き地で何匹もの犬を虐待している怪しげな男ピート・ヤントに遭遇する。この男に邪険にされたジャンは、何かあると考えるが警察は相手にしてくれなかった。数日後ジャンは酒場で、ピートと、有力ギャングと噂されるビリー・シグラが密談しているのを目撃する。やはり何かありそうだが、そんなことよりもビリーとお近付きになってビジネスをしよう*1と考えたジャンは、ビリーと縁を作ろうとする……。
 ジャン・モロの人物造形がまずは印象的である。教養などないものの、ヒューマニズムに溢れていて、彼による一人称の語り口が、作品の雰囲気を決定付けている。原文では、教養がないという設定を活かし、文法も故意に乱した模様で、訳者は大変であった旨告白している。そこまで凝るかとも思うが、それほど、主人公のキャラクターは作品において重要な役割を果たしており、作者もそれを自覚していたということだ。謎や解決の繰り出し方が、いい具合にオフビートで、ミステリとしての構成はうまい。というわけで、これまた広くお薦めできる作品だ。
 なお明らかにできない理由から、リューインのファンは絶対必読の書である。ノン・シリーズだしいいや、とネグっていると後で痛い目を見るはず。

*1:凄まじくアホで教養に欠けるアイデアを、ジャン・モロは至極真面目に、ビジネスになると考えている。