伯林蝋人形館/皆川博子
- 作者: 皆川博子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/08
- メディア: 単行本
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (20件) を見る
『死の泉』から九年、壮大な歴史ミステリー長編
などと謳われると、思わず買ってしまうのが人情である。ただし、そもそも『死の泉』がミステリだったのかとなると、正直判断が付かず、ウムムムと唸りっ放しになるのだが……。
『伯林蝋人形館』は、20世紀初頭からナチス台頭までのドイツを舞台にした小説。6人の男女が順番に視点人物となり、どうやら彼らが書いたという設定らしい幻想小説気味のリレー長編(?)と、作者略歴という体裁で現実に即した物語が紡がれる。第一次世界大戦→敗戦・帝政崩壊・ワイマール共和国成立→世界恐慌→ナチス台頭という、今にして思えばなかなか狂った世相が物語に色濃い影を落とす中、少年少女の出会いと成長が描かれる。いや成長よりも、刹那的な爛熟や退廃と言った方が適切か。皆川博子が手繰る、耽美的で底冷えのする雰囲気、そしてそれを演出する文章が相変らず最強。少年→青年の傷付きやすい心と、比較的強いことは強いが闇に際限なく沈む少女→女の心が、非常に印象的に描出される。それこそ麻薬のような味わいがあり*1、また、世相や麻薬、蝋人形といった小道具もうまく組み込まれ、その腕前には感服するばかりだ。
ミステリ要素は申し訳程度にしかないが、事ここに至ればそんなことはどうでも良い。ファンならば、いつものようにただただ身を委ねよう。そんな作品。