不壊の槍は折られましたが、何か?

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宿命は待つことができる/天城一

宿命は待つことができる (天城一傑作集 (3))

宿命は待つことができる (天城一傑作集 (3))

 表題作は長編で、密室殺人と失われたダイヤ、という派手な状況があり、ネタ自体も相変らずガチガチの本格。しかし、読後もっとも印象に残るのは、ヒロインのバロネス・ベルであるという心憎い一編。他には短編を8編収めている。
 相変らず、非情なまでに余剰物を削ぎ落とし、ストーリーも文章も絞りに絞っている。読みやすい楽しいエンタメを期待する向きは、恐らく天城一には近寄りすらできないはずだ。だがしかし、相応の覚悟をもって取り組めば、左脳と情念だけで突き詰められた物語、島田荘司笠井潔の何倍もの濃度で漂う思想性は、その取っ付き難さにもかかわらず、ほとんど魅力的にすら映り、確かに癖になる。ファンにはお薦め。まあファンなら当然、何も言われなくても買うんでしょうけれど。