不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

赤髯王の呪い/ポール・アルテ

赤髯王の呪い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1790)

赤髯王の呪い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1790)

 1948年ロンドン。エチエンヌは、故郷アルザス在住の兄から、16年前、赤髯王*1ごっこをしていて刺殺されたはずのドイツ人少女エヴァを見かけたと聞かされ、びっくり仰天する。そこで彼は、友人の紹介でツイスト博士に、エヴァ刺殺事件、そして影にあるとされた赤髯王の呪いを語るのだった……。
 出版順はともかく、書かれた年代を考えると、事実上アルテの処女作。ガジェット(呪いとか不可能興味とか)を重視する一方、ロジックの冴えも水準を確保したバランスの良い本格ミステリで、佳作と言える。アルザス地方の反独感情が雰囲気に影響を与えているのも興味深い。ただし真相については、「この人、基本の部分はマンネリズムの作家であったのか」という思いを禁じ得ない。
 よくまとまった作品ではあるので、既成ファンは四の五の言わずに楽しく読めばよいと思います。
 付録のツイストものの短編3作は、極端にシンプルだが、その分キレが良い。変な効果を狙ったりもしない、あっさりさっぱりとした味付けで、好感を持って接することができた。物足りない人が出て来てもおかしくはないが、まあ過大な期待をしなければ大丈夫でしょう。