不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ミッションスクール/田中哲弥

ミッションスクール (ハヤカワ文庫JA)

ミッションスクール (ハヤカワ文庫JA)

 「下痢のため一刻も早く排便したいのですなどと十七歳の女子高生が人前で言うはずがないのだ」という一文から始まる、田中哲弥一流のおバカ短編集。気が付けば『やみなべの陰謀』から7年、いやはや光陰矢のごとしですな。
 学園を舞台に国際的スパイ戦が繰り広げられる表題作、皆が欲望を大声にして出すと爆発が起きる「ポルターガイスト」、筆記具を総務部に取りに行くため壮大なダンジョンに乗り込む「ステイショナリー・クエスト」、女子高生が生物兵器争奪戦に巻き込まれて超常の力を身につける「フォクシーガール」、学園とそして世界が崩壊する「スクーリング・インフェルノ」の5編により構成される。
 いずれ劣らぬバカ話で、何も考えずにゲラゲラ笑いながら読むのが正解だ。しかし特に「タワーリング・インフェルノ」辺りで顕著なように、ふとした拍子に真面目になるときもある。そこで醸し出される寂寥感は、胸が締め付けられるようで実に印象的だ。……しかしこれは非常に散発的かつ稀な事態であり、やはり原則的には、頭空っぽにして、超現実的な笑劇に身を委ねるべきだろう。久々にこの作家の至芸を満喫でき、良かったと思う。