不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

殺人はリビエラで/トニー・ケンリック

殺人はリビエラで (角川文庫 赤 531-2)

殺人はリビエラで (角川文庫 赤 531-2)

 ニースのクラブ《52丁目》は、今日も珍妙なバンドと、寒いコメディアン・コンビのレナルズとウッドが、エンタメとしてはなっていないショーを繰り広げつつ、一応賑わっていた。ところが、背中に短剣を突き刺された男が店によろめき入り、ぱったり倒れて死んでしまった。この死者はその直前、最近レナルズの恋人となったアンジェラに《マルタンのことで会いたい》というメモを渡していた。この殺人事件は彼女に関係があるのか? それとも単なる人違いなのか? レナルズとウッドは調査を開始する……。
 プロットがやや雑然としているし、個別のギャグもいまいちキレがない。ヒロイン像が作中で終始ふらつく(これはプロット迷走のためでもある)のと、主役コンビが、コンビとしてはともかく各個人として然程キャラ立ちしていないのも、この作品の弱点だろう。ただ、ドタバタ系コントのような、奇妙で笑える状況が続出するのはなかなか面白い。クマー!とか普通にあり得なくて笑った。真相も割とオカシイ。
 というわけで、基本的には愉快に読めるユーモア・サスペンスの佳作である。デビュー作ということで興味深くもあり、個人的には好きだ。しかし、トニー・ケンリック初体験がこれだと、ちょっと厳しいかも知れない。ケンリックのほかの作品を読んで気に入った人が、作家の原点として振り返るべき作品か。