わが一高時代の犯罪/高木彬光
- 作者: 高木彬光
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 1996/04
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (1件) を見る
表題作の方は、学内を不審な人物が跳梁する傍ら、肝試し中の一人の学生が駒場の時計台から忽然と姿を消す物語。「輓歌」は、ある資産家の屋敷で、書生が殺されてしまう事件(そして神津恭介の恋!)を扱う。
いずれも、学生時代を後日回想するという構造を持っている。トリック等の仕掛けはいずれも他愛ない*1ものだが、全編に漂う、甘く切なくそして苦い味わいが本当に素晴らしく、過ぎない感傷性もいとをかし。太平洋戦争開戦前夜の世相において青春する*2ということがどういうことであったかを、実に印象的に描き起こす一冊であり、神津恭介や松下研三、その他学生たち、同年代の女性たちの姿は、涙なしには読めないものがある。
なお、この作品は、反戦・嫌戦に左足*3を置きつつも、思想的には一応の中立を保つ。高木彬光は『連合艦隊ついに勝つ』といった架空戦記ものも書いた人でもある。この作家は、戦前日本の全てを感情的・問答無用に否定する馬鹿ではない。自分の職業を占いで決めるような電波であるだけである。安心してお読みください。