銀と青銅の差/樹下太郎
- 作者: 樹下太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1984/06
- メディア: 文庫
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かくして、会社に渦巻く複雑な人間関係が、人死にを惹起するのだった。
物語の各所で、時代性もたっぷり含んだサラリーマンと会社人間の悲哀が描出され、実に味わい深い一品となっている。ミステリ的な仕掛けはそれほど強烈ではないが、代わりに、いかにして事件起こりしか、という人間心理の綾を、樹下太郎の筆は淡白かつ丹念に掘り起こしてゆく。うまい。実にうまい。そしてその根底には、現代のサラリーマンにも通じるものがあったりするのだ。やはり人間は、いつの時代になっても変わらない面だってあるのだなあ、と感慨深い。狂信的女権伸張論者と、古い=悪いと勘違いしている馬鹿を除けば、広くお薦めできる作品ではなかろうか。
なお、昭和50年代に書かれた短編が付録で付いている。何かよくわからんが死神になってしまった一組の男女を描く「死神」、建設現場から出て来た人骨に右往左往する「骨」、嫁が失踪した夫を淡々と描く「土とスコップ」、いずれも哀愁を微妙に漂わせる大人の作品が揃っている。若者*2はどうでもいいかも知れない情感かも知れないが、歳をとった男の中では宝物のようになるんですよこういうのは。
というわけで、一冊の本としても高く評価したい。