不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

消えた女/マイクル・Z・リューイン

 アルバート・サムスンは入居していたオフィスが取り壊されるということで、途方に暮れていた。相変らず客も全然来ず、やっと美人の依頼人が来たと思ったら、慈善事業の寄付のお願いに回って来ただけだったりするのだ。しかし遂に依頼人がやって来る。彼女はエリザベス・ステットラー、ナッシュヴィルに住む旧友プリシラを探してほしいと言う。だが、やがてプリシラは夫フランクの下から失踪していたことが判明する。そこで一旦調査は打ち切られるのだが、数ヵ月後、プリシラと時を同じくしてナッシュヴィル*1から姿を消していた実業家アルバート・コナーの他殺体が発見され、プリシラに嫌疑がかかる。サムスン依頼人エリザベスに連絡を取ろうとするも、彼女も姿を消した後だった……。
 色男コナーと、彼を中心とした複雑な人間関係がナッシュヴィルに張り巡らされる。これがアルバート・サムスンの減らず口に彩られ、ゆっくりと姿を現してゆくのが魅力的。この過程と最終的に現れる複雑な相関図は、相変らずミステリ的に手が込んでいる。登場人物の描出もまた、非常に見事におこなわれており言うことはない。瀬戸川猛資が解説で、リューインの筆致は明るいゆえ、ロスマク風の悲劇的な物語を書く必要はなく、さほど感心しないなどと、珍しく妄言をほざいているのは興味深い。
 というわけで、引き続き広くお薦めしたい一冊となっている。水準がシリーズ第5作に至るも全く落ちないのは驚異的だ。

*1:テネシー州の州都ではなく、インディアナ州ブラウン郡の郡庁所在地。