不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

文章探偵/草上仁

文章探偵 (ハヤカワ・ミステリワールド)

文章探偵 (ハヤカワ・ミステリワールド)

 中堅ミステリ作家・左創作は、カルチャー・スクールで小説講座の講師を受け持っており、作家志望の生徒たち(年齢層も職業もバラバラ)が無記名で提出するテキストを誰が作者か当て、その当てた理由から創作の心得を説き起こしてゆくという講義をおこなっていた。題して《文章探偵》である。そんな左が、ある新人賞の下読みをおこなうことになる。生徒たちも応募しているらしいのだが、彼は応募作品の中に、それらしき作品を発見する。だがその作品内容に酷似する殺人事件が発生し……。
 作中に示される生徒たちのテキスト、誤字脱字が非常に多い。文章のプロファイリングとはいうが、実はこの誤字脱字や変換等のクセから、作者が誰か当てに行くわけで、実態はかなり強引、そしてそれが当たるのだからご都合主義*1ですらある。粗筋や帯から過大な期待を持つと裏切られるだろう。
 しかしながら、以上を踏まえれば、この作品は大変に手が込んだ、よくできた本格ミステリ(そしてバカミスか?)なのである。要するに、狂った前提を「これはそういうものなんだ」と受け容れられるタイプの読者*2には、以降のなかなか奇天烈な展開が至福のひとときをもたらしてくれるはずだ。そもそも、曲がりなりにも推理材料が文章なので、特徴あるミステリを望む読者にとっては、アピール力が高い。
 というわけで、本格好きには強くお薦めしておきたい作品である。くれぐれも《文章探偵》というタイトルそのものには過大な期待を抱かぬよう。

*1:ただし、作者自身はこれに自覚的とおぼしい。

*2:私は、これができてこその本格ミステリ読者だと信じている。