不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

死の演出者/マイクル・Z・リューイン

 暇を持て余すサムスンのもとに、殺人罪に問われた娘婿を助けて欲しいと老婦人が駆け込んでくる。彼女の家に行ってみると、強烈な母親の前にモジモジしている娘がいた。この娘のちょっと貧しめの夫(ベトナム戦争の後遺症で精神病院入院歴あり)が警備会社に勤務しており、派遣先で実業家を訪ねていた私立探偵を誤って射殺したのだという。本人でさえ認めるこの事件、しかし娘は、夫の無罪を信じているのだった……。
 単純明快そうな事件が、次第に様相を異ならせてくる。その様態の移行は、サムスンの絶妙までに《等身大》の語り口に乗せられて、非常にスムーズに進められる。明らかになる真相もなかなか頭が良い。もちろんとてつもなく変だったり、ガチガチなまでの論理構成を見せたりはしないが、プロットがよく考えられているのは間違いなく、『A型の女』と同様、ミステリ的にはなかなか満足できるはずである。
 ただし、『A型の女』は、ヒロインの少女を通して笑いや涙を誘う面があったわけだが、『死の演出者』は完全に大人たちのドラマとなっており、笑いの要素こそサムスンの語りでふんだんに出しつつも、物語は狙いすましたような《泣ける》展開を見せない。とはいえ、適度にセンチメンタルなので、湿っぽさや悲しみも感じられる。こちらの方がリュイーンの《核心》に近いのだろう。
 というわけで、これまたお薦め。読みやすく、薦めるに当たって遠慮しなくて良いのは非常にありがたい。