不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

A型の女/マイクル・Z・リューイン

A型の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

A型の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 流行らない私立探偵業を営むアルバート・サムスンインディアナポリス在住)のもとに、16歳の少女エロイーズ・クリスタルが駆け込んでくる。自分の生物学上の父親を探して欲しいというのだ。何でも、血液型から、自分の今の父(金持ち)が本当の父ではないことに気付いたらしい。100ドルを握り締め、必死に訴えるエロイーズに心動かされ、サムスンは調査を引き受ける。しかしそれは、名家クリスタル家の醜聞を調べることに他ならなかった……。
 恥ずかしながら生涯初リューイン。実に素晴らしい作家・作品だった。
 一人称の主人公、アルバート・サムスンの造形が最高である。気障でもない。お高くも留まっていない。孤高ですらない。むしろ情けないとさえ言えるが、感じるべきことを感じ、いざとなったら言うべきことを言う矜持の持ち主である。すんなりと受け止めることができる性格設定で、彼を通して描かれる登場人物、そしてもちろん彼自身にも感情移入して読み進めることができる。ロスマク風の錯綜するプロット、家庭悲劇が眼前に綺麗に立ち上がるのも本当に見事。結末は心に響く。
 しかもこれが非常に読みやすいのだから、何も言うことはない。疑いなく傑作である。海外ミステリに興味のある人は、一度試してみてはいかがだろうか。