不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

夜の翼/ロバート・シルヴァーバーグ

夜の翼 (ハヤカワ文庫 SF 250)

夜の翼 (ハヤカワ文庫 SF 250)

 舞台はどうやら遠未来の地球で、地名もなまってしまっている。でその人間たちは過去、遺伝子操作や手術等で様々な超能力を付与されたらしい。だがこの物語の冒頭では、そのテクノロジーが維持されているか否かはっきりしないのであった。さてそんな中、《監視》ギルドの主人公(多分50代)は、《翔人》ギルドの娘アヴラエル、《変型人間》(ギルドではない)のゴーモンと共に古都ロウムに到着した……。
 以降色々起きる。ロード・ノベルと言うには大事件が多いものの、単純化すれば、主人公が世界を旅する小説である。この世界巡りの過程で《世界設定》が徐々に明らかにされてゆくのだ。また登場人物は多かれ少なかれ事情を抱えていたりするが、これに関して流れる感傷的な雰囲気も読みどころの一つ。熱っぽくも鬱っぽくもならないのは非常に好ましいが、これには巡礼者然とした主人公の思考回路も一役買っている。ラストのみ、それでいいのかという感なきにしも非ずだが、まあそれまでの世界遍歴が面白いので、この不満点は帳消し可能。全体的にスッキリまとまった、読みやすい話であることは間違いないので、拒絶反応を示す人もあまりいないと思う。シルヴァーバーグで今生きている本は確かこれだけだし、試しに読んでみてはいかがでしょうか。