不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

逆転世界/クリストファー・プリースト

逆転世界 (創元SF文庫)

逆転世界 (創元SF文庫)

 650ヤードの歳になり成人したヘルワードは、未来測量ギルドの一員となり初めて都市の外に出る。《地球市》と呼ばれるその都市は、全長1,500フィート、七層に区切られた要塞のような都市で、軌道敷設ギルドが敷設するレールの上を移動するものだった。そして太陽や月は、ヘルワードが都市内で教えられていたような形ではなく、歪んだ楕円の形状をとっていた。未来測量ギルドの仕事は、都市の軌道を決定すること。付近の土地の形状を考え、最適ルートを計算するのである。しかし何処へ向かって? ……この世界は何処なのか? そしてその秘密とは?
 成人したばかりのヘルワードの仕事振りや結婚生活を絡めながら、彼の成長と挫折を中心に据えて物語の雰囲気を決定。その後、世界の秘密という大ネタを繰り出す物語。多分この大ネタが一番やりたかったことだろうが、『魔法』『奇術師』で見せた、主人公の人生に焦点を設けた甘さ・苦さ・そして切なさを湛えた雰囲気も醸し出されており、非常に素晴らしい。『奇術師』に比べると、ページ数そもののが少ないし、ネタ濃度も高いので、恐らく「長過ぎる・間延びしている」と言う人も少ないだろう。また、『魔法』のラストのようなラディカルさもなく、かと言ってソフト過ぎもせず、至極真っ当なSFとなっている。
 というわけで、3冊読んだ中では完成度の点では一番上であった。彼の最高傑作と言う人も多いだろう。プリーストの作品中、オールタイムベスト企画に顔を出すのは大概これというのも納得の逸品。広くお薦めしたい。