へびつかい座ホットライン/ジョン・ヴァーリイ
へびつかい座ホットライン (ハヤカワ文庫 SF (647))
- 作者: ジョン・ヴァーリイ,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1986/01/01
- メディア: 文庫
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そんな中、月人である科学者リロ(57歳だが25歳の身体を持つ)は、遺伝子に対する犯罪を犯した廉で逮捕され、今の自分はブラックホールに投げ込まれ、人格記録も全て破棄されるという極刑を受けることになった。しかし、元大統領の手下を名乗る奴らの手引きで、刑務所を脱出することに成功する。彼らは、科学者である彼女に何かを望んでいるらしい……。
というわけで、八世界シリーズの長編第1作。世界観が明確に打ち出され、まさにシリーズの劈頭を飾るには相応しい内容なのだが、実は時系列的には一番後ろに位置し、八世界のその後を暗示しつつ、《人類の戦いはこれからだっ!》という感じで終了する。『ブルー・シャンペン』『残像』を既読の人間としては、ある程度このシリーズ世界を見通せるわけで、なかなか味なマネをするなと好印象を持った。
作品自体も大変上質。短編でこれでもかと示された、八世界の爛熟した文化とその情景が遺憾なく発揮され、この文明・社会・環境に即した、現代人とはちょっと違う人々の価値観や思考方法、感受性が見事に描かれている。長編なのでそれが次から次へ繰り出され、とても面白い。ただし、単にこの点から言えば、正確には八世界シリーズではないが似たような社会を描いた『スチール・ビーチ』の方が上。『へびつかい座ホットライン』の独自性は、八世界の歴史を総覧している点にある。要するに、八世界を、《雰囲気》ではなく《話の大ネタ》として扱っているのだ。こういう背景があったとは正直気付かなかった。
というわけで、非常に楽しんだ。八世界シリーズ入門にも適しているので、広くお薦めしたい。