不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

冬至草/石黒達昌

冬至草 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

冬至草 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

 医療SFとも呼べるストーリーを、格調高い文章で着実に描き起こしてゆく作品を6編ずらりと並べた作品集。
 医に対する真摯な姿勢(それは即ち、命に対する誠実さに繋がる)が特徴的で、終始、まったくと言っていいほど娯楽性に走らない。謹厳実直な語り口と、辺りを払うかのような重々しさを持ち、裏腹に心も何も弾まず静々と進む物語(でもふと漂うえも言われぬ情感!)により、もはや古典的とさえ言える風格を備えている。
 命や医療の重さを満喫できるので、「ためになる」小説とすら言えるだろう。読み応えもあるので、広くお薦めしておきたい。しかしあまりエンタメしないので、軽く楽しい読書体験を期待すると肩透かしを食らうだろう。ちなみにSF的なガジェットも強くは打ち出されない。ここら辺で変な予断を持たなければ、楽しめるというか、充実したひと時を過ごせるはずだ。