不壊の槍は折られましたが、何か?

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聖夜の越境者/多島斗志之

 アレクサンダー大王の末裔が住むというアフガニスタンの奥地を、1977年、二人の日本人研究者が学術踏査した。2年後1人は変死。7年後、もう1人も姿を消した。……一方、ソ連は1979年、アフガニスタンに侵攻する。
 アフガニスタン侵攻の真の理由をでっち上げ、それに基づき色々起きる物語。アンドロポフにゴルバチョフも登場して展開される虚々実々の国際謀略、そしてアフガニスタンでそれに翻弄される人々の戦いを、例によって落ち着いた筆致で描く。アフガニスタンにおける戦闘は迫力があるし、国家首脳レベルが登場するシーンは不気味な陰謀に満ちていてなかなか面白い。ただし、日本人主人公の切迫感がいまいち伝わって来ないなど、冒険アクションに身を任せるためには、文章等々で少々テンションが低いといったところか。完成度は低くないので、別にいいんじゃないかと思うのだが、もし『聖夜の越境者』を多島斗志之初体験にすると、色々誤解してしまう恐れがある。
 とりあえず、多島斗志之の多様な作風を示す一例と受け取っておけば良いのではないか。最後の科白とか結構好きですね。