仮面幻双曲/大山誠一郎
- 作者: 大山誠一郎
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2006/06
- メディア: 単行本
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仁木兄妹ミート正史ワールド。
昭和20年代における日本の田舎の名家、といういかにも横溝っぽい環境、そして殺し方もなかなか正史っぽいにもかかわらず、主に探偵役の兄妹が発する都会的で明快な雰囲気によって、すとすと進行する本格ミステリ。完成度はとても高く、色々と回収されてゆく解決シーンは圧巻。この真相、確かにわかると言えばわかるものの、解決で明らかにされる伏線の全てを過たず事前に《読め》ないと、「わかった」と称すべきではないと思う。そもそも、「わかった」からと言ってだからどうしたのか。自分はわかった、だから作品評価を下げる? ふむ、笠井潔や小森健太朗と同じ評価基準を採用するわけですね。冗談はともかく、そこに驚きが伴わねば、張り巡らされた伏線の妙に酔えないのだろうか。たとえ驚けなくとも、仕掛けの完成度が高ければその職人芸をきっちり評価する。それが本筋であろう。もちろん、「完成度」という事柄をどう解釈するか*1という問題がその先に控えているのだが、一応今日はそこまで踏み込まないことにしておく。
……とまあ大いに弁護してきたわけだが、本格云々を抜きにした『仮面幻双曲』がとても下手な小説であることは否めない。先述の都会的で明快な雰囲気を突き抜けてしまい、昭和20年代の会話とはとても思えないような台詞回しが散見される。また、あまりもサクサク読めるので、かえってどうにものめり込めない面がある。読みにくくはないが、文章も正直硬い。とても残念であるし、作者の年齢を考えると、そろそろ焦り出さないと一生改善できなくなりそうだ。
というわけで、本当に本格が好きかどうかわかる長編。合う人は本当に合うだろう。『アルファベット・パズラーズ』を楽しめた人は、試金石ということで試してみてはいかが?
*1:物理的には可能性があるものの、社会的・常識的に実際は困難なトリックをどう評価するか、等。個人的には、社会や常識は全然アテにならんので、少なくとも本格のネタを評価するうえで物差しに使用すべきではないと考えているが、違う意見もあるはずだ。