不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

死の舞踏/ヘレン・マクロイ

死の舞踏 (論創海外ミステリ)

死の舞踏 (論創海外ミステリ)

 12月、雪の日に発見された若い女性の死体は、何とまだ温かかった。そして死因は熱射病……! やがて被害者が、最近アメリカに渡って来た社交界の花であったことが判明する。ペイジル・ウィリングは精神分析の重要性を主張して、警察と提携して捜査に当たるのだったが……。
 ヘレン・マクロイの処女長編。完成度が高く、筋運びもたいへんスムーズで緩急も自在だ。最初から芸風が完成していたことを示しており、読んでいて普通に面白い。もちろん、フロイト学説に依存している点は時代を感じさせるが、心理的手がかりは巧妙に整えられており、なかなか心地よい《解明》を迎えることができる。また、テーマの一部に、現代的な観点から見ても興味深いものが含まれている。
 もちろん、マクロイ自身が『死の舞踏』を越える作品を多く書いているので、マクロイ初体験に向いているかどうかというと微妙である。しかし、先述のように普通に面白いので、特に構えず読む*1のであれば、広く気軽にお薦めできる作品といえるだろう。マクロイヤーは当然必読。
 ……しかし問題は、訳者。訳文自体はそれなりだが、しかし……。これはちょっと厳重注意ではないか。板垣節子に、自分はミステリを訳しているのだという自覚はあるのだろうか?

*1:「これがあのマクロイなのだ!」という気負いはダメですよ、ということ。