不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ラッカー奇想博覧会/ルーディ・ラッカー

ラッカー奇想博覧会 (ハヤカワ文庫SF)

ラッカー奇想博覧会 (ハヤカワ文庫SF)

 奇天烈作家ラッカーを満喫できる短編10連発+日本訪問記2編+ブルース・スターリングとの合作1編。全編非常におバカで楽しめるが、キャラで楽しめるのは何と言ってもあの『時空の支配者』コンビが活躍する作品が3本。慣性を巻き取るというトンでもアイデアが素晴らしい「慣性」が中では最高か。「自分を食べた男」も笑えるオチが待っている。
 もちろんシリーズ外作品も色々と炸裂する。中でも、異星人のモニュメントが鮮烈な印象を与える「虚空の芽」、題名そのまんまの「宇宙紐だった男」、宇宙空間でAV撮影を企画する「宇宙の恍惚」辺りが出色。そしてこれほどまでに理系な男でありながら、ラッカーが「柔らかな死」で見せる宗教的要素は、彼の実像を探る上でなかなか興味深い。行間から「アメリカに帰りたいよぅ」というのが吹き零れている日本訪問記も、正直でたいへんよろしい。ただし、ラッカーのかなりの著作が絶版である今、日本における人気絶頂だった頃の来日譚を読むと、諸行無常の味わいがありますね。
 「クラゲが飛んだ日」は『タクラマカン』にも収められているようだが、これも結構おバカ。しかしスターリング初体験がこれでいいのか俺。
 というわけで、ラッカー入門には最適かもしれない一冊。お薦めです。