不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

セックス・スフィア/ルーディ・ラッカー

セックス・スフィア (ハヤカワ文庫SF)

セックス・スフィア (ハヤカワ文庫SF)

 一家でローマ旅行中だった物理学者のアルウィンは、自分が重要な科学者であると見栄を張ったばかりに誘拐され、しかもアメリカ大使館の変な思惑から、テロリストを燻り出す駒として使われることになり、核爆弾製造を環境テロリストに命ぜられるのだった。……これだけでも大概なのに、アルウィンはこともあろうに、エッチが超大好きな無限次元空間生物バブズの、この次元での現身の一つである小さな球体を手に入れてしまうのだった。
 以降はもうハチャメチャ。酒池肉林の乱痴気騒ぎだが完全にSF、という小説など間違いなくこの作家にしか書けまい。つーかアホです、アホ。たいへん素晴らしい。しかも三次元と四次元(以上)の対比について、ラッカーは「はじめに」で、二次元と三次元の対比になぞらえて、非常にわかりやすく説明してくれる。なるほど。これを読んだら、『ディアスポラ』における五次元空間で蠕動するワームの描写も少しだけわかりやすかったかも知れない。
 というわけで、ラッカー・ファンは必読の楽しい一冊。清純派・潔癖派の読者は、まあ色々なところで情報を仕入れて読むかどうか決めれば良いんじゃないでしょうか。個人的には、本編の中では「セックス球」なのに題名が「セックス・スフィア」なのはなぜか気になる。