不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

空洞地球/ルーディ・ラッカー

空洞地球 (ハヤカワ文庫SF)

空洞地球 (ハヤカワ文庫SF)

 1849年、エドガー・アラン・ポウの死に際して書かれた、メイスンによる手記……。
 奴隷制度華やかりし1830年代、アメリカ南部に住んでいた白人少年メイスンは、ひょんなことから殺人を犯してしまい、飼い犬アーフ、奴隷のオーサと共にリッチモンドに向かう。メイスンが頼ったのは、単なる愛読者というだけではあるけれど話の通じそうなエドガー・アラン・ポウであった。……やがてメイスンは、ポウと共に、地球内部の広大な空洞を探検する旅に出立するのだった。
 奇才ラッカーの描く秘境冒険もの、と言っただけで、ラッカーのほかの作品を読んだことがある人ならこみ上げる笑いを抑え切れまい。事実、各所で巨大な水玉が浮かび、その間を巨大なアンモナイトや鯨が行き交う(=空を飛ぶ)奇妙な情景と、空洞地球の中心のある物体がかなりの硬度でハードSFを導き、黒人化光線などで当時の(そして今も続く)黒人差別に強烈な皮肉をお見舞い、そしてもちろん、エドガー・アラン・ポウが(狂気に駆られつつ)物語に深く関与するなど、様々な要素がごった煮となった珍品。
 正直、若干冗長であるが、おふざけと真面目、そして奇怪なヴィジョンが交錯し、読者を幻惑するラッカー独特の持ち味は健在である。もちろんラッカー・ファンは読んでもよかろうし、また、秘境冒険もののファンにも、特色ある一冊としてお薦めしておきたい。