不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

破局/ダフネ・デュ・モーリア

破局 (異色作家短篇集)

破局 (異色作家短篇集)

 奇妙な心理や行動を描いた作品が多く、状況や世界設定に幻想的なものを含んでいても、それほど前面に出て来ていない短編集。各編はひんやりとした質感を湛えており、他の作家であれば皮肉たっぷりに描く部分も、実に淡々と描き上げる。そして結果として露わとなるのは、登場人物の孤独さ、寂寥感、人間の虚無感であったりするのだ。この感覚は実際に読まないとなかなかわからないだろう。各編を紹介してもされても仕方ないタイプの作品揃いだといえよう。個人的には「アリバイ」「青いレンズ」「美少年」「あおがい」辺りの、奇妙な人間模様がとても印象深かった。
 なお、広くお薦めするのには若干躊躇する。ここら辺の感覚、スルーする人も多そうだと思う。別にスルーしてもいいというか仕方ないような気がする*1ので、楽しめなかったとしても読み手として云々する気はまったくありませんです。同様のタイプの作家や作品をパッと思い付けないので、「これが好きな人にはお薦め!」とかもできず歯痒い。

*1:そもそも「ここら辺の感覚」、私の気のせいかもしれない。