不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

配達あかずきん/大崎梢

配達あかずきん (ミステリ・フロンティア)

配達あかずきん (ミステリ・フロンティア)

 とある書店の若手の女性二人組によって、常連客たちの日常の謎が解き明かされるという趣向の連作短編集。いずれも書店ならではのエピソードであり、本好きならば好感を持ってしまうだろう。質自体もそれなりのものが確保されており、登場人物もなかなかに魅力的。読みやすいのも非常に助かる。というわけで、割合広い層にお薦めできる作品集だと思われる。装丁も手が込んでいて実に見事。畏怖すべき大傑作ではないが、気軽に楽しく読める良い本だと思う。
 以下は巻末の対談に関する個人的な想念を書いてみた。作品そのものとは無関係なので、興味ない方は見ない方が良いかも。
 巻末の対談は不愉快であったが、こういう裏方トークを炸裂させないと、神様たるお客様*1は書店員や編集者を、一個の尊厳ある人間としては見ないのかも知れない。神様たるお客様から見れば、お客様たる自分の言うことは絶対かつ正義そのものなのである。こういった、何をおいても店員は文句を言われたら平身低頭謝らねばならないとする勘違い消費者様は、傍から見ているだけで気分が悪いものだ。蕎麦屋に入ったら、ある客が通りがかった店員を捕まえて偉そうに「この蕎麦のツユは、あたしにとっては濃過ぎる! 謝れ!」と、限りなくいちゃ文に近い文句を喚き散らしているのに出くわした気分であり、蕎麦屋のせいではなくそのクレーマーのせいで実に嫌な気分に陥る。それも、店員が誠心誠意「うちのツユがなぜこの味か」を説明しているにもかかわらず、である。客であるというだけで非常に高圧的な態度に出る人をたまに見かけるが、人間として全く理解できない。蕎麦一杯の金出すくらいで神にでもなった気分か? そんな品性下劣な客が支払う御代くらい俺が払うから、さっさとつまみ出せ。
 ……とまあ、そんな事態をできるだけ少なくするためには、いかに客商売が大変かを面白おかしく語るのも、それはそれでアリかも知れないと思う今日この頃であった。