不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

マーシャン・インカ/イアン・ワトスン

 まさか本当に題名どおりの内容だとは、イアン・ワトスン恐るべし。
 アンデスの小村アプスキーに、火星からソ連無人探索機が墜落する。実は探索機は火星の土を持ち帰っており、それが付近に四散したのだった。そして次々と倒れる村人たち。彼らのほとんどは助からなかったが、インディオの一組のカップルは、昏睡状態に陥りながらも疫病から生還。男の方はインカ皇帝を自称してインカ帝国の復活を宣言、原住民を率いてボリビア政府に昂然と反抗するのだった。
 一方、アメリカは火星テラフォーミング計画を実行に移すべく、3人の科学者を乗せた宇宙船を火星に向かわせていた。しかしボリビアで変な疫病が流行り、しかもその生き残りはインカ皇帝を僭したことを踏まえると、本当にこの火星行きは安全なものなのだろうか……?
 『エンベディング』『ヨナ・キット』に比べると、本作はアイデアと実際の物語の結合がうまく行った方だと思う。変なアイデアを、文化人類学と生物学にうまく絡めて凄い大法螺を吹いている。物語を回収しオチを付けることには相変わらず興味がないようだが、アイデアの実体化という観点からは、それなりの成功を収めているのだろう。もっとも、ここでなぜインカだったのかがよくわからないし、文章や人物造形・挿話等は非常に生硬なので、やはり一般に広くお薦めするには躊躇を覚える。ハードSFファンは読んで損はしないと思うのだが……。