不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

地獄の季節/ジャック・ヒギンズ

地獄の季節 (ハヤカワ文庫 NV (718))

地獄の季節 (ハヤカワ文庫 NV (718))

 義理の息子が麻薬組織に殺されたと聞き、実業家サラ・タルボットは激昂。自ら復讐を果たさんと、彼女は元特殊部隊員イーガン(ロンドンのギャングの大ボスの甥)の協力を請う……。
 巧緻な麻薬犯罪に絡み、ロンドンとパリを舞台にした冒険譚。なかなかよく考えられた物語であり、話のテンポも徐々に加速してきたりしてペース配分も手馴れたもの。そして特筆すべきは殺し屋ジェイゴのキャラクター。一応敵なのだが、スタンスが変幻自在であり、とぼけたいい味を出している。新鮮な感受性に彩られた物語ではないが、代わりに大ベテランの安定・成熟した手腕により、最後まで楽しく読むことができる。過大な期待は禁物だが、気軽に冒険ものを読みたい人にはお薦めである。