エグゾセを狙え/ジャック・ヒギンズ
- 作者: ジャック・ヒギンズ,沢川進
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1984/08
- メディア: 文庫
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
あれ? フォークランド紛争の話じゃなかったの? という導入部から始まるが、上記エピソードは、主人公トニー・ヴィリアーズの有能ぶり(厳しい警護をかいくぐり、女王陛下の寝室にだって侵入できるんだぜ!)を示すために書かれたに過ぎない。すぐに場面は転換し、フォークランド紛争において実力を発揮した空対艦ミサイル《エグゾセ》を巡る、スパイ・冒険とそれに附随する熱い恋愛劇が楽しめる。アルゼンチン側の主人公ラウル・モンテラが英国空軍のハリアーと空戦したりもするが、基本の舞台はイギリス・フランスであって、フォークランドにおける戦争そのものの活写は少ない*1。トニーとラウルが(戦争においては敵味方に分かれ、しかも穴兄弟であるにもかかわらず)双方なかなかの漢であり、本作戦において心を通わせる辺りが実に味わい深かった。冒険大好きな男性主人公が二人擁立された時点で、ヒギンズ謹製の作品がこうなることは必然だったのかも知れぬ。物語も波乱万丈であり、スパイ劇としても企みに満ちていて完成度は高め。
重厚な物語を期待されても困るが、娯楽作品を求める向きには遠慮なくお薦めしたい一冊だ。
*1:とは言いながら、戦争の虚しさもしっかり描出する辺り、さすがはヒギンズである。